理学療法士になるには?
仕事内容から国家試験、学校選びまで徹底解説
Column

執筆者
医学アカデミー講師 新井 啓介(理学療法士)
「どうすれば理学療法士になれるのか?」そんな疑問をお持ちではないでしょうか。理学療法士は、ケガや病気、高齢などにより身体機能が低下した方々に対し、リハビリテーションを通じて回復をサポートする専門職です。高齢化が進む現代社会において、その需要はますます高まっています。
この記事では、理学療法士になるための具体的なステップ、国家試験の難易度や合格率、そしてやりがいや将来性まで、理学療法士を目指す上で知っておきたい情報を網羅的に解説します。あなたのキャリア選択の一助となれば幸いです。
理学療法士の仕事内容と役割をおさらい

理学療法士(Physical Therapist、略してPT)は、医師の指示のもと、主に運動療法や物理療法を用いて、基本的な動作能力(座る、立つ、歩くなど)の回復や維持、悪化の予防を支援するリハビリテーションの専門家です。
理学療法士の仕事は、患者さん一人ひとりの状態に合わせたリハビリテーションを提供することです。そのプロセスは多岐にわたります。
理学療法士が対象とする人々
理学療法の対象者は、新生児から高齢者までと幅広く、以下のような様々な疾患や状態の方が含まれます。
- 脳卒中後遺症
- 骨折、靭帯損傷などの整形外科疾患
- スポーツ外傷・障害
- 神経難病(パーキンソン病、脊髄小脳変性症など)
- 呼吸器疾患(肺炎、COPDなど)
- 心疾患(心筋梗塞、心不全など)
- 小児の先天性疾患や発達障害
- 加齢に伴う身体機能の低下
近年では、医療機関だけでなく、介護予防や健康増進、スポーツ選手のパフォーマンス向上、企業の健康経営支援など、理学療法士の活躍の場はますます広がっています。
医学アカデミーの卒業生では、プロ野球の球団にトレーナーとして在籍していたり、病院・施設で理学療法士として活躍していたり、開業して自分のお店を持って活躍している方もいます。

理学療法士になるためのステップ
理学療法士になるには、いくつかのステップを踏む必要があります。ここでは、その全体の流れを解説します。
理学療法士になるためのステップ1:学歴要件のクリア
理学療法士になるには、高校卒業または高等学校卒業程度認定試験(高卒認定)に合格している必要があります。その理由は、理学療法士養成校の入学条件として高校卒業資格が必要なためです。
養成校入学にあたっては、理系科目(特に生物、物理)の基礎学力があると入学後の学習がスムーズに進む場合があります。
理学療法士になるためのステップ2:養成校での学習
文部科学大臣または厚生労働大臣が指定する理学療法士養成校(大学、短期大学、専門学校)で3年以上学び、専門知識と技術を習得することが必要です。通信教育のみでは理学療法士になることはできず、カリキュラム履修、臨床実習を必ず完了する必要があります。
養成校については、公益社団法人 日本理学療法士協会が都道府県別の一覧を用意しているため下記からご覧ください。
医学アカデミー理学療法学科は理学療法士を養成する専門学校です。学生寮完備の専門学校のため、遠方の方もまずはご検討ください。
理学療法士になるためのステップ3:国家試験の受験と合格
養成校で必要な課程を修了し卒業(または卒業見込み)となると、理学療法士国家試験の受験資格が得られます。この試験に合格することが必須です。
試験は年に1回、例年2月頃に実施されます。筆記試験(一般問題・実地問題)で構成されます。
理学療法士になるためのステップ4:免許取得と就職
国家試験合格後、厚生労働大臣に免許を申請し、理学療法士免許証の交付を受けます。就職活動は養成校在学中から始まることが一般的です。その後、病院や施設などに就職し、理学療法士としてのキャリアがスタートされます。
理学療法士になるための学校選び|大学・専門学校・短期大学を比較

理学療法士になるためには、文部科学大臣または厚生労働大臣が指定する養成校で3年以上学ぶ必要があります。 養成校には主に以下の種類があり、それぞれ特徴が異なります。自分に合った学校を選ぶことが重要です。
養成校の種類と特徴
養成校の種類と特徴は下記の通りです。
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4年制大学 | 3年制短期大学 | 専門学校 | |
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修業年限 | 4年間 | 3年間 | 3年制または4年制 |
得られる学位/称号例 | 学士 | 短期大学士 |
専門士(3年制) 高度専門士(4年制) |
学習内容の特徴 | 幅広い一般教養と専門知識を深く学び、研究能力も養うことができる。卒業研究が必修の場合が多い。自分で授業を選択するため、自己管理能力は必要である。 | 比較的短期間で専門知識を習得する。 | 実践的なスキル習得に重点を置いた教育が行われる。国家試験対策や就職サポートが手厚い学校が多い傾向がある。国家試験に向けたカリキュラムとスケジュールが決められている。 |
学費傾向 | 比較的高め | 4年制大学よりは抑えられる傾向 | 3年制は大学より抑えられ、4年制は大学と同程度かやや抑えられる傾向 |
メリット | 大卒資格が得られるため就職先の選択肢が広がる可能性がある。大学院進学など将来のキャリアの幅が広がる。じっくりと時間をかけて深く学べる。 | 4年制大学よりも1年早く卒業し、国家試験の受験資格を得られる。 | 臨床現場で役立つスキルを効率的に学べる。実習時間が豊富である場合が多い。業界との繋がりが強く就職に有利な場合がある。3年制であれば短期間で資格取得が可能。 |
デメリット | 修業年限が長く、専門学校や短期大学に比べて学費が高くなる傾向がある。専門学校に比べ実技の時間が少ない場合もある。 | 4年制大学に比べて学習期間が短いため、カリキュラムが密になることがある。研究や幅広い教養を深める時間は限られる。 | 大学に比べて一般教養科目が少ない場合がある。3年制の場合、学習スケジュールがタイトになることがある。 |
こんな人におすすめ | 学術的な探求心がある人、幅広い知識を身につけたい人、将来的に研究や教育の道も視野に入れている人。 | 早く臨床現場に出たい人、学費を抑えたい人。 | 実践的なスキルを重視する人、早く資格を取得して働きたい人(3年制)、専門性をより深めたい人(4年制)。 |
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3年制と4年制の違い
修業年限が3年か4年かで、学習内容の深さや得られる学位・称号、学費などが異なります。
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学習内容と深さ
一般的に4年制の方が、より時間をかけて専門分野を深く掘り下げたり、関連分野の知識を広げたり、研究活動に取り組んだりする余裕があります。3年制は、国家試験合格に必要な知識・技術を効率的に習得することに重点が置かれる傾向があります。 -
得られる学位・称号
4年制大学では「学士」、3年制短大では「短期大学士」、4年制専門学校では「高度専門士」(大学院入学資格が得られる場合がある)、3年制専門学校では「専門士」が一般的です。これらは就職やその後の進学において影響することがあります。 -
学費
一般的に修業年限が長い方が総学費は高くなります。 夜間部を設置している専門学校もあり、昼間部と比較して学費が抑えられている場合があります。
医学アカデミーは3年制の「専門士」となりますが、臨床経験を3年以上積むと大学院に進学することが可能となります。卒業生の中には臨床で抱いた疑問を研究で深めるため、大学院に進学する方も出ています。
学校選びのチェックポイント
自分に合った養成校を選ぶためには、以下の点を総合的に比較検討することが大切です。
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カリキュラム内容
どのような科目をどのような特色を持って教えているか、自分の学びたい分野に力を入れているかを確認しましょう。 -
国家試験合格率
過去の合格実績は重要な指標です。全国平均と比較してどうか、新卒・既卒別の合格率はどうかなどを確認しましょう。(近年の合格率は80%~90%前後で推移しています。) -
臨床実習先
どのような医療機関や施設と提携しており、どのような内容の実習が行われるのか、実習時間や指導体制も確認しましょう。 -
学費と奨学金制度
入学金、授業料、実習費、教材費(教科書代は20~40万円程度)など、卒業までにかかる総費用を把握しましょう。利用できる奨学金制度(日本学生支援機構、地方自治体、各養成校独自のものなど)や教育ローン、専門実践教育訓練給付金制度 など、経済的支援についても調べておきましょう。 -
施設・設備
図書館、実習室、運動療法機器、物理療法機器などが充実しているかをチェックしましょう。 -
立地と通学の利便性
自宅からの通学時間や交通手段、学校周辺の環境も考慮しましょう。 -
学校の雰囲気と教員
オープンキャンパスや説明会に参加して、学校の雰囲気や教員、在学生の様子を直接感じ取ることが大切です。 教員の専門性や指導への熱意も確認したいポイントです。 -
就職サポート体制
卒業後の就職支援はどの程度行われているか。求人情報の提供、面接指導、卒業生のネットワークなども確認しましょう。
サイト上の情報のみで判断することは難しいため、オープンキャンパスや学校説明会に積極的に参加し、複数の学校を比較検討することをお勧めします。
医学アカデミーでは、毎回イベントの内容が異なり、様々な視点で学校を見ていただく企画を用意しています。ぜひ、リアルな学校を見に来てください。
理学療法士国家試験について|難易度・合格率・勉強法

養成校で必要なカリキュラムを修了すると、理学療法士国家試験の受験資格が得られます。この国家試験に合格することが、理学療法士として働くための必須条件です。
国家試験の概要
試験名 | 理学療法士国家試験 |
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実施時期 | 例年2月下旬(年に1回) |
受験資格 | 文部科学大臣または厚生労働大臣が指定する養成校(大学、短大、専門学校等)で3年以上学び、必要な課程を修了した者(卒業見込みを含む) |
試験内容 |
筆記試験(マークシート方式) ・一般問題: 解剖学、生理学、運動学、病理学概論、臨床心理学、リハビリテーション医学(リハビリテーション概論を含む)、臨床医学大要(人間発達学を含む)、及び理学療法 ・実地問題: 運動学、臨床心理学、リハビリテーション医学、臨床医学大要(人間発達学を含む)、及び理学療法(症例形式を含む) |
合格率 |
近年はおおむね80%~90%前後で推移しています。例えば、2024年度(第60回)の合格率は89.6%でした。 参考:厚生労働省「第60回理学療法士国家試験及び第60回作業療法士国家試験の合格発表について」 |
合格基準 | 総得点および実地問題の得点が、それぞれ定められた基準点以上であること。この基準は年度によって若干変動することがあります。 |
受験料 | 10,100円(令和5年度時点) |
合格発表 | 例年3月下旬 |
国家試験の難易度と勉強法
合格率だけを見ると比較的高いように感じられるかもしれませんが、養成校で専門的な教育を受け、十分な準備をした受験者が母集団であることを考慮すると、決して簡単な試験ではありません。 養成校での日々の授業をしっかりと理解し、計画的に学習を進めることが合格への近道です。
多くの養成校では、国家試験対策として特別な講義や模擬試験などを実施しています。 また、過去問題を繰り返し解くこと、苦手科目を克服すること、体調管理をしっかり行うことも重要です。
【対象者別】理学療法士を目指すためのアドバイス

理学療法士を目指す方の状況に応じて、いくつかアドバイスがあります。
高校生・中学生の方へ
理学療法の学習には、人体の構造や機能、物理的な運動法則の理解が基礎となるため、高校では生物や物理といった理系科目を重点的に学ぶことが推奨されます。また、専門書や英語の論文を読む機会もあるため、英語の基礎学力も重要です。国語力も、コミュニケーションやレポート作成のために役立ちます。 養成校での専門的な学習に備え、計画的に学習する習慣を身につけましょう。
社会人の方へ
社会人から理学療法士を目指す方も増えています。年齢制限はなく、社会人経験が強みになることもあります。社会人から理学療法士を目指す場合のポイントや注意点については、こちらの記事で詳しく解説しているので参考にしてください。
社会人から理学療法士を目指すには|働きながら国家資格を取得する方法と注意点を解説
理学療法士の仕事の実際|勤務先・給料・将来性
理学療法士として働くことを具体的にイメージするために、主な勤務先、給与水準、そして将来性について見ていきましょう。
主な勤務先と業務範囲
理学療法士の活躍の場は多岐にわたります。
- 医療機関
- 介護保険関連施設
- 障害者(児)関連施設
- 教育・研究機関
- 行政機関
- 企業
給料・年収の目安
理学療法士の給与は、勤務先の種類、規模、地域、経験年数、役職などによって異なります。
厚生労働省の調査などによると、理学療法士の平均年収は一般的に400万円台前半から中盤程度とされています。 新卒の初任給は月額で20万円台前半から半ば程度が一般的です。
将来性とキャリアパス
高齢化社会の進展に伴い、リハビリテーションの専門家である理学療法士のニーズは今後も高まると予想されます。 一方で、理学療法士の数も増加傾向にあるため、専門性を高め、得意分野を持つことの重要性が増しています。
理学療法士のキャリアパスは多様です。
臨床での専門性追求: 特定の分野(脳血管障害、運動器疾患、スポーツ、小児など)の専門性を深め、認定理学療法士や専門理学療法士といった上位資格の取得を目指す。
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管理職
臨床経験を積んだ後、リハビリテーション部門の主任や科長、部長といった管理職へ進む -
教育・研究分野
大学や専門学校の教員として後進の育成や、研究活動に従事 -
独立開業
経験と実績を積み、自らリハビリテーション施設や整体院などを開業(保険診療による開業には制限あり) -
他分野への進出
スポーツトレーナー、福祉用具開発、行政など、知識や経験を活かして他分野で活躍
AI技術の発展など、医療環境の変化に対応しながら、専門性を磨き続けることが、理学療法士として長く活躍するための鍵となるでしょう。
まとめ|理学療法士になるには養成校での学習と国家試験の合格が必要

理学療法士は、人々の身体機能の回復をサポートし、生活の質の向上に貢献できる、非常にやりがいのある専門職です。高齢化が進む現代社会において、その需要はますます高まっています。
理学療法士になるためには、養成校で専門的な知識と技術を学び、国家試験に合格する必要があります。簡単な道のりではありませんが、この記事で解説した情報を参考に、しっかりと準備を進めてください。
医学アカデミーでは、理学療法士を目指すすべての方を応援しています。オープンキャンパスや個別相談も随時受け付けておりますので、お気軽にお問い合わせください。